カスタマージャーニーマップとは?BtoB向け作り方6ステップ
カスタマージャーニーマップの定義・目的・BtoB向け作り方を6ステップで解説。テンプレート・ツール比較・企業事例6選付き。ROI54%向上の根拠データも紹介。
カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品・サービスを認知してから購入・利用に至るまでの行動・思考・感情を時系列で可視化するフレームワークである。BtoB領域では意思決定者が平均6〜10人にのぼり(Gartner)、BtoCとは根本的に異なる設計が求められる。
執筆・監修: シリョログ編集部
この記事では、カスタマージャーニーマップの定義から、BtoB企業が成果を出すための作り方6ステップ、テンプレート・ツール比較、実践事例までを網羅的に解説する。
この記事でわかること:
- カスタマージャーニーマップの正確な定義とBtoBで重要な理由
- ROI54%向上を実現した導入効果の定量データ
- BtoB特化の作り方6ステップ(テンプレート付き)
- 主要ツール6選の比較と選び方
- BtoB企業の実践事例6選
01. カスタマージャーニーマップとは?——定義とBtoCとの違い
カスタマージャーニーマップの基本定義
カスタマージャーニーマップ(Customer Journey Map、以下CJM)とは、見込み顧客が商品・サービスを認知し、情報を収集し、比較検討を経て購入に至るまでのプロセスを図式化したものである(ferret One)。
ここで重要なのは、CJMが単なる購買フローの図解ではないという点だ。Salesforce Japanは「顧客が商品やサービスを知り、最終的に購入するまでの、カスタマーの『行動』『思考』『感情』などのプロセス」と定義しており(Salesforce Japan)、顧客の感情変化まで含めた体験の全体像を捉えるツールである。
学術的には、Katherine N. LemonとPeter C. Verhoefによる論文"Understanding Customer Experience Throughout the Customer Journey"(Journal of Marketing, Vol. 80, 2016)が代表的なフレームワークを提示している。同論文はカスタマージャーニーを**「購買前(Pre-purchase)」「購買時(Purchase)」「購買後(Post-purchase)」**の3段階で構造化し、各段階におけるタッチポイントと顧客体験の関係を理論化した(Lemon & Verhoef, 2016)。被引用数は約4,100件(2026年3月時点)を超える高影響力論文だ。
BtoB vs BtoC——7つの構造的違い
BtoCとBtoBのカスタマージャーニーには、構造的に大きな違いがある。BtoCでは意思決定を主にひとりで行うため、スピードが速く感情に訴えるアプローチが有効だ。一方BtoBでは、購入の意思決定に組織の合意が必要であり、ひとつの稟議を通すのに数週間かかるケースも珍しくない(Sansan営業DX Handbook)。
| 比較項目 | BtoC | BtoB |
|---|---|---|
| 意思決定者 | 個人(1名) | 組織・複数名(平均5.4〜10名) |
| 購買サイクル | 数日〜数週間 | 数週間〜数ヶ月以上 |
| 訴求アプローチ | 感情的・衝動的 | 合理的・論理的 |
| 決裁プロセス | 本人の判断 | 稟議・社内会議・役員承認 |
| ペルソナ設定 | 1名を詳細に | 担当者・決裁者・利用者など複数 |
| 重視される情報 | 口コミ・ブランドイメージ | ROI・導入実績・技術仕様 |
| 購買後の関係 | リピート・推奨 | 継続取引・アップセル・カスタマーサクセス |
出典:Sansan営業DX Handbook、ferret One、Gartnerをもとに作成
BtoBでは「商品やサービスを検討する人」「決裁権がある人」「実際に利用する人」が異なるため、CJMを設計する際には複数のペルソナを同時に扱う必要がある。この複雑さこそが、BtoBでCJMを活用する最大の理由だ。
DMU(購買意思決定単位)を理解する
BtoB購買における最大の特徴は、DMU(Decision Making Unit:購買意思決定単位)の存在である。DMUとは「企業の購買プロセスに関与する複数人の集合体」を指す(ニジボックス)。
米CEB社(現Gartner傘下)が約3,000人のBtoB購買担当者(2014年調査)を対象に行った調査では、購買に平均5.4人の承認が必要(2014年時点。2017年には6.8人に増加)であることが判明している(HubSpot、Challenger)。さらにGartnerの2025年調査では、複雑なBtoBソリューションの購買には6〜10人の意思決定者が関与し、各自が4〜5件の独自調査を持ち寄ることが報告されている(Gartner)。
DMUの構造は商談の金額が増加するほど縦方向に拡大する。担当者から部長、さらに役員へとエスカレーションする形で意思決定権が移譲されるため、高額商材ほどCJMの設計が複雑化する(mtame)。
02. カスタマージャーニーマップの目的とは?——導入する5つのメリット
カスタマージャーニーマップを作成する目的は、単なる「顧客理解」にとどまらない。BtoB企業がCJMを導入することで得られる5つのメリットを、定量データとともに解説する。
メリット1:マーケティングROIの向上
Aberdeen Groupの調査"Customer Journey Mapping: Lead the Way to Advocacy"によると、正式なカスタマージャーニーマネジメントプログラムを導入した企業は、マーケティングROIがYoY(前年比)で24.9%向上しており、未導入企業の16.2%と比較して54%の差が生じている(Aberdeen Group / McorpCX)。
| 指標 | CJM導入企業(YoY) | 未導入企業(YoY) | 差異 |
|---|---|---|---|
| マーケティングROI | 24.9% | 16.2% | 54%向上 |
| 営業サイクル速度 | 16.8% | 0.9% | 18倍高速化 |
| クロスセル・アップセル収益 | 15.3% | 9.8% | 56%増加 |
| 顧客サービスコスト改善 | 21.2% | -2.2% | 10倍以上改善 |
| 顧客紹介収益 | 17.9% | 5.1% | 3.5倍増加 |
出典:Aberdeen Group "Customer Journey Mapping: Lead the Way to Advocacy"(McorpCX経由)
注意: Aberdeen Groupのデータは調査時期・サンプルサイズの詳細が有料レポートでのみ確認可能であり、対象企業の業種・規模の偏りについては留意が必要である。
メリット2:営業サイクルの短縮
上記のAberdeen Groupデータで最も注目すべきは、営業サイクルの18倍高速化という数値だ。BtoB特有の長期購買サイクルが大きな経営課題であることを考えると、CJMの導入が購買プロセスの効率化に直接寄与するエビデンスとなっている。
CJMによって各フェーズで顧客が求める情報が明確になり、適切なタイミングで適切なコンテンツを提供できるようになることが、この高速化の要因と推察される。
メリット3:部門間のアラインメント
BtoB企業のDXコンサルティング事例やSaaS企業の事例では、マーケ・営業・CS部門がCJMを**「共通言語」**として活用することで、部門間の認識齟齬が解消されている(Zenforce)。
つまりCJMは「顧客を理解するためのツール」であると同時に、**「組織を整列させるためのツール」**でもある。特にBtoBでは営業・マーケ・CSなど複数部門が顧客接点を持つため、CJMなしでは施策の重複や抜け漏れが発生しやすい。
メリット4:顧客体験の改善と収益向上
McKinseyの研究によると、カスタマージャーニーを効果的にマッピングし最適化した企業は、収益の10〜15%増加とサービス提供コスト15-20%削減を達成している(McKinsey)。また、CJMと定量分析を組み合わせることで、改善施策のROIが最大35%向上するとの報告もある(McorpCX)。
注意: McKinseyデータは二次引用が中心であり、原典の直接確認が推奨される。※本データは二次引用で広く流通しているが、McKinsey原典の直接確認は困難。
メリット5:LTV(顧客生涯価値)の最大化
Aberdeen Groupのデータでは、CJM導入企業はクロスセル・アップセル収益が56%増加し、顧客紹介収益が3.5倍に達している。これは、CJMが新規獲得だけでなく、既存顧客のLTV向上にも有効であることを示している。
BtoBの取引は単発では完結しない。年間契約やリカーリング収益が事業の柱となるため、購買後のジャーニー設計(オンボーディング→活用→更新→拡張)がLTVに直結する。
03. BtoBカスタマージャーニーマップはどう作る?——6ステップ実践ガイド
BtoBのCJM作成は「ゴール設定→ペルソナ設定→フェーズ定義→タッチポイント洗い出し→感情曲線描画→コンテンツギャップ策定」の6ステップで進める。BtoB特有のポイントは、複数ペルソナの並行設計と部門横断での合意形成である。
日本のBtoBマーケティング実務家向けリソース(才流、ferret One、HubSpot Japan、BeMARKE)を横断分析した結果、CJM作成プロセスは以下の6ステップに集約される。各ステップをBtoB特有の要点とともに解説する。
ステップ1:ゴール(KGI/KPI)の明確化
CJM作成の最初のステップは、目的の定義だ。「リード獲得数の向上」「商談化率の改善」「解約率の低下」など、具体的なビジネス指標と紐づけることで、作成後のアクションにつなげやすくなる(ferret One、才流)。
BtoBのポイント: 営業・マーケ・CSなど複数部門が関与するため、部門横断でのゴール合意が前提となる。「マーケ部門だけで作ったCJM」は、営業現場で使われずに形骸化するリスクが高い。
ゴール設定の例:
- リード獲得:月間MQL数を現状の1.5倍にする
- 商談化:MQLからSQLへの転換率を20%→30%に改善する
- リテンション:年間解約率を10%→5%に低減する
ステップ2:ペルソナの設定
BtoBではBtoCと異なり、最低2種類のペルソナが必須である。「情報収集をする担当者」と「最終的な意思決定を行う組織(決裁者)」を分けて設定する(ferret One)。
ペルソナに含めるべき要素:
個人属性:
- 役職、担当業務、決裁権の範囲
- 日常的に使うチャネル(メディア、SNS、業界イベント)
- 抱えている課題・KPI
企業属性:
- 業種、従業員規模、売上規模
- 決裁フロー(稟議の段階数、承認者数)
- 社風(保守的/革新的、トップダウン/ボトムアップ)
リコーの事例では**「意思決定権者」「購買窓口担当者」「ユーザー部門」**の3つの役割別にペルソナを設定しており、BtoBの複雑なDMU構造に対応した好例である(HubSpot Japan)。
ステップ3:購買フェーズ(横軸)の定義
時系列に沿って顧客の購買プロセスをフェーズ分割する。BtoBの一般的なフェーズ構成は以下の8段階であり、BtoCよりも意思決定プロセスが複雑になる(HubSpot Japan)。
- 課題認知 — 自社の課題を自覚し始める段階
- 情報収集 — 解決策の候補を広く集める段階
- 比較検討 — 複数のソリューションを比較する段階
- 社内提案 — 担当者が社内に提案資料を作成する段階
- 稟議・承認 — 決裁者の承認を得るプロセス
- 導入決定 — 契約・購入を確定する段階
- オンボーディング — 導入・初期設定・運用開始の段階
- 継続利用 — 定着・活用・更新・拡張の段階
ここで重要なのは、Gartnerの調査が示すように、B2B購買者はベンダーとの面談に購買時間全体のわずか17%しか費やさないという事実だ(Gartner)。デジタルのセルフサービスタッチポイントの設計が特に重要になる。
ステップ4:行動・タッチポイント・チャネルの洗い出し
各フェーズにおける顧客の行動と、それに対応するタッチポイントを同時に洗い出す。ペルソナの行動とタッチポイントは相互に影響し合うため、分離せずに考える必要がある(SATORI)。
BtoBの代表的なタッチポイント:
- Web検索、SEOコンテンツ
- 展示会・カンファレンス
- ウェビナー
- ホワイトペーパーダウンロード
- 営業訪問・オンライン商談
- 無料トライアル・デモ
- 導入事例・お客様の声
- 社内プレゼン資料(バイヤーイネーブルメント)
Gartner調査(2025年6月)によると、**61%のBtoB購買者は「営業担当者なしで購入したい」**と回答し、73%は「無関係なアウトリーチを行うベンダーを積極的に回避する」と答えている(Gartner)。CJM設計では、顧客のセルフサービス行動とデジタルタッチポイントの比重を引き上げることが不可欠だ。
ステップ5:思考・感情・課題の記入と感情曲線の描画
各フェーズでの顧客の思考、感情、課題を記入する。このステップで最も注意すべきは、自社都合の願望で作成していないかを常に検証することだ(HubSpot Japan)。
感情曲線とは、テンションが上がる場面で曲線が上昇し、ストレスや面倒さを感じる場面で下降するもので、一連の感情変化を視覚的に表現するツールである(Brand Buddyz)。
感情曲線の低下ポイントこそが改善施策の最優先ターゲットとなる。BtoBでよくある感情低下ポイントの例:
- 情報収集フェーズ: 必要な情報が見つからない、ゲートコンテンツの入力が面倒
- 比較検討フェーズ: 料金が非公開で問い合わせが必要、他社との違いが不明確
- 社内提案フェーズ: 上司を説得する材料が足りない、ROI試算ができない
- 稟議フェーズ: 決裁者向けの簡潔な資料がない、セキュリティ要件が不明
BtoBならではの知見: Gartnerの営業調査(2025年5月)では、BtoB購買チームの74%が購買決定プロセス中に「不健全な対立」を経験しており、合意に達した購買グループは質の高い取引を報告する可能性が2.5倍高い(Gartner)。CJMには「組織内の合意形成プロセス」を明示的に組み込むべきだ。
ステップ6:コンテンツギャップと施策の策定
最後のステップでは、「見込み顧客の態度変容が起こり、次のフェーズへ移行するにはどんなきっかけが必要なのか」を考え、各フェーズでの情報ニーズとコンテンツのギャップを洗い出す(ferret One)。
ギャップが見つかれば、新たなコンテンツ制作やタッチポイントの追加を施策として優先度づけする。才流は、CJM作成後に半期または年単位でマップを更新し、現実との乖離を修正することを推奨している(才流)。
各フェーズのコンテンツ設計例:
| フェーズ | 顧客のニーズ | 提供すべきコンテンツ |
|---|---|---|
| 課題認知 | 課題の明確化 | ブログ記事、業界レポート |
| 情報収集 | 解決策の比較軸 | ホワイトペーパー、ウェビナー |
| 比較検討 | 具体的な性能・価格情報 | 製品比較表、無料トライアル |
| 社内提案 | 上司を説得する材料 | ROI計算ツール、導入事例 |
| 稟議・承認 | 決裁者向けの簡潔な情報 | エグゼクティブサマリー、セキュリティ資料 |
| 導入決定 | 契約条件・サポート体制 | 提案書、SLA資料 |
| オンボーディング | 初期設定・運用ノウハウ | 操作マニュアル、キックオフMTG |
| 継続利用 | 活用深化・ROI実感 | 活用事例、ユーザー会 |
Demand Gen Reportの2024年B2Bバイヤー行動調査によると、購買者の**75%が「前年より購入決定に時間がかかるようになっている」**と回答しており、意思決定プロセスに追加しているトップ活動は「より詳細なROI分析の実施」(38%)と「リサーチ時間の増加」(31%)であった(Demand Gen Report)。
04. どのテンプレート・ツールを選ぶべき?——CJMツール比較
BtoB向けCJMツールは、部門横断ワークショップにはMiro、経営層レポーティングにはLucidchart、CJM専用の深い分析にはUXPressiaが最適だ。無料テンプレートはHubSpot Japan(7種類)とBeMARKEが配布しており、初回はExcelでも十分実用的である。
テンプレートの標準的な構成要素
BtoB CJMテンプレートの標準的な構成は、横軸に**「購買フェーズ」**(認知・情報収集・比較検討・意思決定・導入・継続利用)、縦軸に以下の項目を配置するマトリクス形式である(才流、HubSpot Japan)。
縦軸の構成要素:
- チャネル・タッチポイント
- 顧客の行動
- 思考・感情
- 課題・ペインポイント
- 施策・コンテンツ
- KPI・測定指標
HubSpot Japanは7種類のCJMテンプレートを無料配布しており、全36ページのPDFでCJMの重要性から作成手順まで詳細に解説している(HubSpot Japan)。BeMARKEはBtoB特化のテンプレートにペルソナ記入方法を付属させた無料配布を行っている(BeMARKE)。
主要ツール6選の比較
| ツール名 | 特徴 | BtoB適性 | 料金 |
|---|---|---|---|
| Miro | リアルタイム共同編集、CJMテンプレート標準搭載(Miro) | 高(部門横断ワークショップに最適) | 無料プランあり / 有料$8〜/月 |
| Lucidchart | CJM・エンパシーマップ等の専用テンプレート。ドラッグ&ドロップで操作しやすい(VWO) | 高(ステークホルダー向けプレゼンに強い) | 無料プランあり / 有料$7.95〜/月 |
| UXPressia | CJM特化ツール。ペルソナ・インパクトマップとの統合(VWO) | 最高(CJM専用設計) | 無料プランあり / 有料$16〜/月 |
| Smaply | サービスブループリント・ステークホルダーマップに強み(VWO) | 高(サービス設計重視の場合) | 有料$19〜/月 |
| Canva | テンプレートで非デザイナーでもビジュアルなCJMを作成可能(VWO) | 中(シンプルなCJMには十分) | 無料プランあり |
| HubSpot | CRMとの連携が強み。無料テンプレート7種を配布(HubSpot Japan) | 高(MA連携での実運用に強い) | テンプレートは無料 |
ツール選定の判断基準
ツール選定では、以下の3つの基準で判断するとよい。
- 部門横断のワークショップで使う場合 → Miro(リアルタイム共同編集が強み)
- 経営層へのレポーティングが重要な場合 → Lucidchart(プレゼン品質の高い出力)
- CJM専用の深い分析が必要な場合 → UXPressia(ペルソナ連携・エクスポート機能)
初めてCJMを作成する場合は、ExcelやGoogleスプレッドシートでのマトリクス作成でも十分に実用的だ。重要なのはツールではなく、フェーズ設計とペルソナの精度である。
05. BtoB企業はCJMをどう活用している?——実践事例6選
BtoB企業のCJM活用は、セキュリティソフトの信頼醸成、BPOのスイッチングコスト活用、SaaSのリテンション改善、製造業の複数ペルソナ設計など多様なパターンがある。以下、業種と課題の多様性を意識して6件紹介する。
事例1:セキュリティソフトウェア企業——無形商材の信頼醸成
IT部門担当者をペルソナとして設定。セキュリティソフトは無形商材であり、その価値の評価が難しいという特性から、比較検討フェーズでの情報提供が特に重要となった(Zenforce)。
CJMの活用により、信頼感醸成のためのセキュリティ教育コンテンツの提供と、バイヤーイネーブルメント(購買者が社内で製品を推薦しやすくする支援活動)を体系的に設計した。「顧客が社内で説明しやすい資料」をCJMのどのフェーズで提供するかを明確にした好例である。
事例2:BPOサービス企業——スイッチングコストの活用
カスタマーサポート担当者をペルソナとした事例。BPOサービスはサービスの差別化が難しく、価格比較に陥りやすい課題を抱えていた。一方で、一度導入するとスイッチングコストが高い特性がある(Zenforce)。
CJMを通じて**「導入後の満足度向上」にフォーカス**し、ポジティブな評判を比較検討フェーズに還流させる仕組みを構築した。購買後(Post-purchase)フェーズからの逆算設計が特徴的だ。
事例3:会計SaaS——カスタマーサクセスとリテンション
財務担当者をペルソナとした導入後のCJM事例。SaaS製品の場合、フリートライアルから有料転換までの離脱率が高い課題がある(Zenforce)。
利用データに基づいてボトルネックを特定し、各フェーズの課題解消に向けた研修プログラムや専門家会議などのCS施策を設計した。CJMが新規獲得だけでなく、リテンション・アップセル設計にも有効であることを示す事例だ。
事例4:リコー——製造業の複数ペルソナ設計
リコーはCJMにおいて**「意思決定権者」「購買窓口担当者」「ユーザー部門」**の3つの役割別にペルソナを設定し、4段階(認知→検討→導入→活用)の各段階で役割ごとの提供体験を設計している(HubSpot Japan)。
DMUの複雑さに正面から向き合い、役割別のジャーニーを並行設計した製造業の代表的な事例だ。各DMUメンバーの関心事と情報ニーズが異なることを可視化した点で、他の企業にも応用しやすいアプローチである。
事例5:DXコンサルティング企業——部門間アラインメント
DX部門担当者をペルソナとした事例。顧客側の課題が不明確であることが多く、インサイドセールスと営業部門の業務分担が課題となっていた(Zenforce)。
サイト訪問から商談までのプロセスを詳細にマッピングすることで、部門間の認識の相違を回避し、リード獲得効率を改善した。マーケ・営業間のアラインメントにCJMが「共通言語」として機能した事例だ。
事例6:日経BPコンサルティング——長期関係構築型
日経BPコンサルティングは、購入後の**「継続取引」**までを含む長期的な関係構築を想定したCJMを設計している(HubSpot Japan)。
BtoBの取引は単発で完結せず、年間契約やリカーリング収益が重要である。購買後のジャーニー設計(オンボーディング→活用→更新→拡張)がLTVに直結するため、CJMの範囲を「購入まで」で区切らず「継続・拡張」まで含めることの重要性を示している。
06. なぜCJMは失敗する?——3つの落とし穴と回避策
CJMの代表的な失敗原因は「企業の願望優先」「ターゲット未絞り込み」「作成後の放置」の3つである。Aberdeen Groupの調査ではCJM導入済み企業はわずか36%に留まっており、正しい方法で取り組めば大きな競争優位となる。以下、ferret Oneが指摘する失敗パターンと回避策を解説する(ferret One)。
失敗1:企業の願望を優先してしまう
問題: 「顧客はこう動いてほしい」という自社都合のジャーニーを設計してしまい、実際の顧客行動と乖離する。
回避策: 顧客インタビューやアンケートによるファクトベースの設計が必須。既存顧客5〜10名へのインタビューを実施し、実際の購買プロセスをヒアリングする。営業チームからのフィードバックも重要なデータソースとなる。
失敗2:ターゲットを絞り込めない
問題: ペルソナが汎用的すぎて、どの顧客にも当てはまるが誰にも刺さらないマップになる。
回避策: BtoBでは**「最も受注率の高い顧客セグメント」**から始める。全顧客を網羅しようとせず、売上貢献度の高いセグメントに絞り込んでCJMを作成し、成功体験を得てから拡張する。
失敗3:作成後の効果検証を怠る
問題: ワークショップで作成して「完成」とし、その後の更新や効果測定を行わない。CJMが壁に貼られたまま参照されなくなる。
回避策: CJM作成後に半期または年単位でマップを更新し、現実との乖離を修正する(才流)。CJMの各フェーズにKPIを設定し、定期的にモニタリングする仕組みを構築する。
導入率の現状: Aberdeen Groupの調査では、CJMプロセスを導入済みの企業は全体の**わずか36%**に留まっている。この低い導入率は、高いROIデータと対比すると、CJM未導入企業にとっての大きな成長機会を示唆している。
07. 2026年のCJMはどう変わる?——AI・CDP・リアルタイム分析の最新トレンド
2026年、CJMは静的なワークショップ成果物から、AIとCDPで動的に更新されるオペレーティングモデルへと進化している。Gartnerは2026年までにBtoB営業組織の65%が完全なデータドリブンに移行すると予測しており、CJMの「リアルタイム化」が実用段階に入った。
トレンド1:静的マップから運用システムへの転換
Forresterの副社長兼プリンシパルアナリストJoana de Quintanilhaは、2026年1月のブログ記事で次のように述べている。
「カスタマージャーニーマネジメントはもはやより良いマップを持つことではない。顧客インサイトを企業全体でアクセス可能かつ説明責任を持てるものにすることである」(Forrester)
この転換は、CJMをワークショップ成果物から、VoC(Voice of Customer)・アナリティクス・BI・デザイン・デリバリーツールをつなぐ**「結合組織」**として再定義するものだ。
トレンド2:AIによるジャーニー設計の自動化
生成AIがジャーニーの草案作成とインサイト統合を加速させている。Forresterは「Human-in-the-loopのコントロール、説明可能なソース、セキュリティ承認、明確なガバナンス」の重要性を強調している(Forrester)。
具体的には、アドビが**「Journey Agent」**をJourney Optimizerに組み込み、顧客の購買やカスタマージャーニーの設計をAIエージェントが支援する形態が登場している(MarkeZine)。マーケティングにおけるAIの役割は「分析補助」から「自律的な施策実行」へと進化しつつある。
トレンド3:CDP連携による超パーソナライゼーション
AIとCDP(Customer Data Platform)を統合することで、ジャーニーマップは静的な設計図からリアルタイムで変化する動的マッピングへと進化している。顧客の行動に応じてフェーズやタッチポイントが自動更新され、次の最適アクション(Next Best Action)が提示される(Re-BIRTH)。
Treasure Data CDPは、顧客のリアルタイムな行動変化からAIが「購入への意欲が高まるタイミング」や「顧客に刺さる言葉」を精緻に予測・判断する機能を実装している(宣伝会議)。
トレンド4:データドリブン購買の加速
Gartnerのレポートは、2026年までにBtoB営業組織の65%が完全なデータドリブンになると予測している(Gartner)。これに伴い、CJMも定性的なワークショップ成果物から、定量的なデータに裏付けられた「測定可能なジャーニーモデル」への転換が求められる。
Forresterが推奨する2026年のアクション:
- CJMを単なるツールではなくオペレーティングモデルとして扱う
- プラットフォーム選定を組織の成熟度と変革能力に合わせる
- 明確なアウトカム連動を持つハイインパクトなジャーニーでパイロットを実施する
よくある質問(FAQ)
Q. カスタマージャーニーマップとは何ですか?
カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品・サービスを認知してから購入・利用に至るまでの行動・思考・感情を時系列で可視化するフレームワークである。BtoBでは意思決定者が平均6〜10人にのぼり、複数ペルソナを同時に扱う設計が必要となる。
Q. BtoBとBtoCでカスタマージャーニーマップの作り方は違いますか?
大きく異なる。BtoCは個人の購買行動を1本のジャーニーで表現できるが、BtoBではDMU(購買意思決定単位)を反映し、担当者・決裁者・利用者など複数ペルソナの設定と稟議・承認プロセスの組み込みが必要だ。
Q. カスタマージャーニーマップの作成にどのくらい時間がかかりますか?
初回の作成には2〜4週間が目安である。ゴール設定とペルソナ設計に1週間、顧客インタビューに1〜2週間、マップ作成と合意形成に1週間が標準的な内訳だ。半期〜年単位の継続的な更新も必要となる。
Q. 無料で使えるカスタマージャーニーマップのテンプレートはありますか?
HubSpot Japanが7種類、BeMARKEがBtoB特化テンプレートを無料配布している。Miro・Lucidchart・UXPressia・Canvaも無料プランを提供しており、初回はExcelやGoogleスプレッドシートでも十分実用的だ。
Q. カスタマージャーニーマップを導入するとどんな効果がありますか?
Aberdeen Groupの調査では、CJM導入企業はマーケティングROIが54%向上し、営業サイクルが18倍高速化している。顧客の購買プロセスを可視化し、マーケ・営業・CS部門の施策を整合させることで組織全体の収益向上に直結する。
まとめ
カスタマージャーニーマップは、BtoB企業にとって「顧客を理解するツール」であると同時に「組織を整列させるツール」である。本記事のポイントを振り返る。
定義: カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品・サービスを認知してから購入・利用に至るまでの行動・思考・感情を時系列で可視化するフレームワークである。
BtoB特有の重要性: 意思決定者が平均6〜10人、購買チームの74%が組織内で不健全な対立を経験するBtoB環境では、CJMによる購買プロセスの可視化と合意形成支援が不可欠だ。
定量的な効果: Aberdeen Groupの調査では、CJM導入企業はマーケティングROIが54%向上し、営業サイクルが18倍高速化している。McKinseyのデータでは収益10〜15%増加も報告されている。
作り方の6ステップ: ゴール設定→ペルソナ設定→フェーズ定義→タッチポイント洗い出し→感情曲線描画→コンテンツギャップ策定。BtoBでは複数ペルソナの並行設計と部門横断の合意形成が成功の鍵となる。
今後のトレンド: 2026年はCJMが静的マップから動的なオペレーティングモデルへと転換する節目の年である。AI・CDPの活用により、リアルタイムでの最適化が実用段階に入っている。
まだCJMを導入していないなら、まずは売上貢献度の高い1つの顧客セグメントに絞り、6ステップの作成プロセスを実践してみてほしい。BtoBマーケティングの全体像を把握した上でCJMに取り組むことで、施策の優先順位がさらに明確になるはずだ。
参考文献
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